広島市立大学国際学部4年 向地 由
皆さまこんにちは、広島市立大学4年の向地由です。約一年間のルワンダでの留学を終え、無事日本に帰国しました。帰国から既に数か月が経ちましたが、ルワンダで過ごした日々が遠い昔のことであったような気もすれば、まるで昨日のことのように思い出されるという不思議な感覚と共に日本での生活を送っています。今回は一年間のルワンダ留学を通して学ばせてもらったことについてご報告をしたいと思います。
ピアス大学での学び
佐々木先生が教えていらっしゃるピアス大学で様々な国からの留学生と共に平和や紛争について学びました。その中でも特に心に残っているのは「和解と癒し」の授業です。
この授業に参加する前、私にとって「和解」と聞いてイメージするのは裁判や歴史認識といったもので、自分に関係がないと感じていました。しかし授業を受ける中で自分自身にも和解したい人がおり、また自分が住む日本にも問題があることに気づき、和解は決して自分と無関係ではないのだと気づきました。
またこの授業では和解についての勉強だけではなく、佐々木先生が関わっておられたキレヘでのプロジェクトに参加し和解をしたジェノサイドの被害者と加害者の方から実際にお話を伺うことが出来ました。その時にルワンダ人のクラスメートたちが目の色を変えて彼らの話に聞き入り、積極的に質問していた姿が印象的でした。ルワンダ人にとって心から和解することはやはり難しく、キレヘで起きている和解はまるで奇跡のようなものだと感じているようでした。彼らにとってそのような人々のお話を聞けることがどれだけ貴重であるかを感じた瞬間でした。
そして授業の最後には自分が関心を持つ和解の問題についてチームで発表する機会を頂き、日本人留学生4人で「在日韓国人と日本人の和解」について発表しました。近年日本で起きている在日韓国人へのヘイトスピーチ問題を取り上げ、双方の和解のために何が必要なのか、またどのようにしてそれが可能なのかについて議論しました。発表を通してこの問題は両政府が話し合えばいいというものではなく、一人の日本人として向き合い、考えなければならない問題なのだということを強く実感しました。
私はルワンダに来るまでぼんやりと平和や紛争に対して興味を持っていただけで、それらを広島や日本の問題と結びつけ、自ら何かの行動を起こしたことはありませんでした。そうした問題を、日本で起きている「出来事」としてしか捉えていなかったからです。一方でピアスの学生たちは自国について精通しているだけではなく、様々な問題に対して自分自身の意見をしっかりと持っていました。留学当初、そのような彼らと自分の間に差のようなものを感じていました。しかし授業で日本のことを聞かれたり、広島や沖縄のこと、また韓国との和解について発表する機会を頂く中で、少しずつ日本の問題が「自分自身の問題」なのだという意識に変わっていきました。それらは決して他人事ではなく、自分が属する社会の問題であると思うようになったのです。私が感じていたピアスの学生と自分の違いというのは、こうした自国や自分のコミュニティに対する「当事者意識」だったのかもしれないと感じています。和解の授業での発表は、その「当事者意識」をもって課題に取り組み、自分なりに考えを巡らせた忘れがたい経験となりました。
ルワンダ人に教わったこと
また授業以外では、佐々木先生が関わっていらっしゃるキレヘやニャンザでのプロジェクトに積極的に足を運び現場を見させていただきました。その中で私は一体何が和解を可能にするのだろうと疑問に感じていました。そして人々からお話を伺い、また佐々木先生の和解の授業やディスカッションを重ねていく中で、少しずつ答えが見えてきたような気がしました。私にとって、その答えというのは「他者の痛みに想像力を働かせ、理解しようとする力」なのではないかと思います。キレヘでのプロジェクトに参加された生存者のサラビアナさんやアグネスさん達を見ていると、例え加害者であっても、彼らの中にある人間としての良さを見出し、また彼らが罪に向き合うことの辛さを理解しようとしているように思いました。加害者側も被害者との関わりの中で、自分が過去に犯した過ちによって相手がどれだけ傷つき痛みと共に生きているということを想像し、自身の罪の重さや責任を自覚し始めるのではないだろうかと思います。もちろんそれは簡単なことではなく、長い時間を要するし、そこに至るまでには様々な試練や葛藤があります。しかし、決してそれらから逃げずに真摯に向き合い続けるルワンダの人々は、人間としての強かさを示してくれているのではないかと思います。
ピアスの友達にもらった勇気
最後に、ピアスの学生からもらった勇気についてお話をしようと思います。その勇気とは平和の実現を信じ続けることです。
ブルンジ人の友達と授業の後に話していた時のことでした。彼女の母国ブルンジでは2015年の政治動乱以後、今も政府による一般市民の不当な逮捕や殺害が頻繁に起きており、市民たちも平和的な解決を諦め、民兵組織を結成するなどして武装蜂起していると聞きました。それを聞いた私は、長く続く政治動乱の中で人々は疲弊し武力に頼るという選択は仕方ないのかもしれない、望みがないのならそうした手段をとりたくなる気持ちもわかると言いました。すると彼女は「確かにそういう気持ちは分かるよ。でも暴力は暴力しか生まない。短期的な解決にはなっても、連鎖はずっと続いていくと思うよ。だから、たとえどんなに時間がかかったとしても、非暴力によって平和がもたらされると私は信じている。」と答えました。立ちはだかる大きな問題を前にして、簡単に諦めるのではなく強い意志をもって自分に出来ることをしていく。国の将来に希望を見出せない人が多くいるブルンジで、それでもなお非暴力によって必ず平和が訪れることを信じ続けている彼女を見て、佐々木先生の教えが確かに伝わっていることを実感したと共に、小さなことでも行動に起こす「勇気」、また信じ続けるという強さを教わりました。彼女の言葉をきっかけに、私も広島のために何かしなければという気持ちになりました。そんなきっかけをくれた彼女にとても感謝しています。
このルワンダの留学で一生の付き合いとなるような素敵な仲間が出来、佐々木先生のもとで平和について学ぶという貴重な経験をさせてもらえたことにとても感謝しています。佐々木先生や恵さんを始め、ピアスの皆さんには本当にお世話になりました。そして、これからもピアスで学ぶ学生たちの心の中に平和の種が蒔かれ、それぞれが花を咲かせることを強く願うとともに、私自身も素敵な花を咲かせられるように自分が出来る小さな行動を起こしたいと思います。